English Football from Plymouth
[Today's Story]
「The most interesting thing in the first half was that flying bird.」
スタジアムで隣に座っていたおじいさんは小声でそう言った。
サングラスをかけ、耳にはイヤホン。ラジオで他の試合のことを聴いているのだろう。
ハーフタイム。
選手たちが去ったピッチの脇では、爆音を轟かせているバイクショーが行われている。
晴天の空の下、スタジアムに集まったPlymouth Argyleのサポーターたち。
前半を終了してスコアは0−0。
Plymouthは、相手のCharlton AthleticのGKが退場したにも関わらず、攻めあぐねた。
不満が募ったサポーターたちの頭上を悠々と飛ぶ鳥。
春の暖かい日差しを一人楽しんでいるよう。
鳥を見て平静を取り戻すのは久しぶりだった。
2008年4月5日の土曜日。
Coca Cola Championshipの一戦をプリマスのHome Parkで観戦した。
プリマス近郊に住む友人NeilはArgyleのサポーター。
この試合は、リーグ6位までに与えられるプレーオフ進出権を得るために、落とせないものだった。
今シーズンは健闘しているArgyleは、その可能性があった。
Neilは興奮を隠せない様子だった。
スタジアムは良い雰囲気に包まれている。
選手たちが入場すると、サポーターたちは拍手で出迎え。
小さな子供からおじいさんたちまで、サポーター全員が期待を込め手をたたく。
そして、チームを鼓舞する合唱が始まった。
スタジアムの誰もが、プリマスの勝利を信じていた。
最高潮に達したムードの中、キックオフの笛が鳴り響いた。
Argyleはこのムードを活かしたかった。
開始早々、相手チームのGKがゴールエリア外で手を使い退場。
この有利を確実にするためには、ゴールが早く欲しい。
焦ったのだろうか。
うまくパスがつながらないArgyle。雑なロングパスがピッチを横切る。
ボールを支配できないホームチーム。
前へ前へと気持ちばかりが進み、地に足がついていなかった。
Kick & Rushで前半が終了。
サポーターたちは落胆。「最悪」とNeilは一言。
ハーフタイム後に現れたArgyleは、まさかこの春の午後が最悪になるとは思わなかっただろう。
勝つか、せめて引き分けか。
試合は動いた。
右サイドを崩したArgyleはクロスボールのこぼれ球を相手ゴールに蹴りいれた。
「Yeah!!」スタジアムが歓喜に包まれた。みなが一斉に立ち拍手。
これで勝利に近づいた。しかし、この安堵もつかの間だった。
すぐに、セットプレーからCharltonがゴールを奪った。
事態は悪化。
Argyleのパフォーマンスは低調なまま。
Neilは「今シーズン最低の出来だ」と落胆を隠さない。
後半30分頃、Charltonが追加点を奪った。スタジアムは沈黙した。
そして、選手たちも沈黙した。
その後試合は、何の驚きもないまま終わった。
虚しさと落胆だけがスタジアムには残っていた。
まだプレーオフ進出の希望が消えたわけではない。
でもNeilは肩を落としたまま。
「何が最悪かって言うと、後半にチームが勝利を諦めたこと。」
諦めた。
ゴールを奪おうとする意欲、ボールに対する執着心、勝利に対する執念。
これら全てが、Argyleから見られなかった。
この試合の敗戦より、選手たちのモチベーションの低下がNeilを気にさせた。
「これでは、プレーオフに進出できない。」
Neilだけがそう感じたわけではない。
他のサポーターたちもチームの不甲斐無さに、怒りを通り越し、ただ失望した。
試合前にNeilは僕にこう言っていた。
「English FootballはPassion(情熱)が最も大切だ。」
ファンたちは、地元チームを愛し応援すること。
選手はチームのために全力を尽くす。
決して、走ることをやめない。
リヴァプールのジェラード、イングランド代表のベッカムのように。
この選手たちの情熱が、ファンには伝わってこなかった。
春の陽光が陰ってきた夕方。
ファンはパブへ向かい、鳥たちは夕暮れの空を舞い、家路を急いでいる。
空虚感を埋める光は、Argyleに再び差し込むのだろうか?
Ryo2412